春のお彼岸に寄せて『閼伽桶』と『すいか』
今日3月21日は「春分の日」です。
春のお彼岸は、「春分の日」を中日として前後3日間なので、今年は18日~24日です。
この7日間の都合の良い日にお墓参りをすればいいといわれています。
春と秋のお彼岸とお盆の時期はお墓に添えるお花は、皆さんが購入するので、どうしても値段が高くなるか本数がいつもより少なくなるのがちょっと残念です。
お墓に添えるお花としては「菊」のイメージですが、旬のお花ならカーネションなどでもいいようです。
ただ、バラのようなトゲのある花や毒をもつ花、そしてツルがある花は仏への花としては禁忌のようです。
故郷のお墓は、墓じまいをして今ではありませんが、小さなころお寺にあった先祖代々のお墓参りをすることは決して嫌いなことではありませんでした。
といっても人が亡くなるとお墓に入るということは知ってはいたものの、墓の中のご先祖様には生前に会ったことがない方々ばかりでした。
それなのになぜ墓参りが嫌いではなかったのかを考えると、今思うとたぶんそれは手桶のせいだと思うのです。
手桶とは、墓参りの際に墓に水をかけたり、花の水やりをする桶のことです。
お寺の門をくぐるとこの手桶がずらりとかけてあるのがまず目に入ってきます。
そこからひとつ桶を取り出して、水を汲んで先祖のお墓まで運ぶ。
普段は持つことのない柄の長い桶を持つことがちょっとうれしかった。
そして、お墓のてっぺんからまんべんなく墓石に水をかける。花を添えて水をかけ線香をあげる。
お墓参りをする上で欠かせないこの非日常的な一連の動作が私にとってはとてもお気に入りだったのだと思います。
ところで、この桶に名前のあることをご存じでしょうか?
数十年前、知人からこの桶の名前を聞くまで、この桶に名前があるなんて思ってもみませんでした。
「閼伽桶」。
「あかおけ」。桶の名前です。
最初知人から聞いた時は「赤桶」という文字が浮かんで、どこも赤いところがないじゃないと馬鹿なことを思ってしまいました。
「閼伽」とはサンスクリット語で「argha」。
意味は「敬意を表すための贈り物」。のちに仏に添える功徳水をいうようになったそうです。
昔の文豪と呼ばれる作家には、墓参りの描写にこの「閼伽桶」がしっかり書かれてあります。
島崎藤村、堀辰雄、森鴎外、野村胡堂といった作家たちの例文は「ふりがな文庫」というサイトからご覧いただけます。興味のある方はこちらからご覧ください。
今年の春のお彼岸はちょっといつもと違った感じで迎えています。
それは今年に入って自分のお墓を持つことができたからかもしれません。
といっても樹木葬タイプの集合墓。
自宅から近く、後継者もいらず、檀家になる必要もなく、宗教も問わないということで私にはぴったりのお墓だと思い決めました。昔、『すいか』というテレビドラマがありました。主人公の住む下宿先の4人の女性の日常生活を描いたドラマでしたが、さりげない会話が心にしみてくるような素敵なドラマでした。
ある日、主人公の勤め先で誰にも気づかれず忘れられて腐ってしまったすいか。
そのすいかを下宿先に持ち帰り、庭に埋めて「すいかの墓」を作ります。
すると同じ下宿人の1人である大学教授がその墓を見てこう言います。
「でもお墓って人類の発明よねぇ。死んだ人を忘れないように……でも安心して忘れなさいっていうために作られたものだと思うわ」
死んでからのことを思い悩むことなく忘れて過ごすため、そして安心して生きていくために、わたしは自分のお墓を持ったのだと思います。
「暑さ寒さも彼岸まで」といわれだんだん春に向かっていきます。しかし数日前には雪が降りまだ少し春は先のようです。今日も自宅近くから見える北アルプスの山々がとてもきれいです。
お灸教室情報の詳細はこちらからご覧ください。