幕末の漢方医学書『砦草』(とりでぐさ)
一昨日、松本の新村福祉ひろばで「お灸を学ぶ」3回シリーズの第1回目を開催させていただきました。第1回目の基礎編では、もぐさ作りやお灸の体験していただき、お灸の歴史についても少しお話をさせていただきました。
お灸は、2千年以上も前の中国最古の医学書『黄帝内経』(こうていだいけい)にはすでに記載されています。『黄帝内経』は2011年にユネスコの世界記憶遺産に選定されています。
日本のお灸の歴史は中国から6世紀(飛鳥時代)ごろに伝わったとされています。
日本現存最古の医学全書丹波康頼によって編纂された『医心方』にも灸治療について記載があります。
今回、お灸に関することも書かれた書物として、幕末の漢方医学書『砦草』(とりでぐさ)についてご紹介します。
実は『砦草』は明治になって政府により漢方医学が医学として外されて以来、約150年間秘蔵されていた書物です。その『砦草』の現代語訳版が今年7月に出版されました。
今回現代語訳された5人の著者のお一人である鍼灸師・薬剤師の平地治美さんのお話を聞く機会があり、そこで初めて『砦草』という漢方医学書があることを知りました。
『砦草』の著者は原南陽(1753-1820)という水戸の漢方医です(写真上)。
執筆動機は、息子が医師をやめて祖先の武士を継ぐことを許されたため、息子が武士となって辺境に赴くときの緊急時に備えて書いたものです。
戦いに臨む心構えや普段からの健康管理に注意すべきこと、現代にも生かせる緊急時の対処法が書かれているため、貴重な資料だと考えて今回現代語に翻訳されて刊行されました。
この原南陽の処方のひとつとして今も使われている薬に「乙字湯」があります。「痔」の処方に使われています。
『砦草』での具体的な対処法には、火に囲まれた場合や毒ガス、船酔いの対策、食あたり、打撲、銃創や刀傷。足の豆や火傷、溺れた場合や凍傷の処置、気絶や仮死状態、ストレスなど34の症状が書かれています。
その中でお灸に関する記述がでてくる項目は少なくありません。
野陣(野営の事)、犬喰(病犬にかまれた場合)、気絶、虫歯、脚気(かっけ)、踏抜(トゲやくぎを踏みつけて足の裏に突き刺すこと)、まめ、溺死、魘死(えんし=睡眠中の突然死)、瘧(ぎゃく=マラリアの一種)などです。
特に気絶や脚気、瘧には具体的なツボ名も載っています。今の時代にも生かせる救急医療時や災害時の応急対応のときに知っておくと役立つ書物です。
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