長谷川式スケールと認知症Gold-QPD鍼灸師

okyuu

鍼灸の受療率をご存じでしょうか?
受療率とはある一日にどれくらいの患者が受診をしたかを表す数値です。

昨年(2019年)は前年(2018年)の4.0%から5.2%で1%以上も上がっています。鍼灸の受療率が1ケタなのは寂しいですが、1%がおよそ100万人と考えればすごいことです!

今年はコロナの影響で受療率も伸びないかもしれませんが、だんだん鍼灸が皆様に認知されてきていることはうれしいなと感じます。

ここ数年、NHKで鍼灸関連の番組が何度か放映されたことも影響しているようです。

当院に初回で見えられる方も「NHKのテレビを見て鍼灸を初めて知って」と言って来院される方も少なくありません。
来年早々にも、NHKで鍼灸についての番組が放映予定だそうです。

さて、前回のブログの続きです。
昨年、母の介護認定見直しのために認定調査員の方が自宅に来て、簡単な認知症検査を行ったときのことです。

「ここは施設ですか、自宅ですか?」という認定調査員の方の質問に「施設です」と答えた母。
この質問は場所の見当識(けんとうしき)を見る質問です。
見当識とは、現在の年月や時刻、場所など自分が置かれている状況を認識していることをいいます。

まだ母に場所の見当識障害はないと思っていたので「施設です」という答えに驚きを隠せませんでした。
それから「なぜここが施設なんだろうか?」ずっと疑問に思い続けていました。

それから2か月後のある日、偶然見たテレビ番組を見ていてこの疑問を母に尋ねてみようと思いました。

そのある番組とは、今年の1月11日に放映された『認知症の第一人者が認知症になった』というNHKスぺシャルです。
11月3日にも再々放送されていました。

この番組は、認知症医療の第一人である長谷川和夫医師が、2017年に自らが認知症になったことを公表してから以降の生活をドキュメントにしたものです。

そして長谷川医師といえば、認知症の早期診断に日本で広く使われている「長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)」(以下長谷川式スケール)を開発した有名な方なのです。

この長谷川式スケールは9項目から成り立っています。
年齢や日時・場所の見当識、3つの言葉の記銘力、計算問題、数字の逆唱、3つの言葉の遅延再生、5つの物品記銘力、言葉の流暢性をみるものです。
30点満点で20点以下は認知症の疑いがあるという評価です。

HSD-R

この長谷川式スケールには、実は苦い思い出があります。理学療法士の1年目にこの長谷川式スケールを患者さんにしたときのことです。

この検査の最後の項目に「知っている野菜の名前をできるだけ多く言ってください」という言葉の流暢性をみる検査があります。
野菜の名前は、女性より男性の方がすぐに出てこないことが多く、中には野菜の名前でなく、「きんぴら」とか「おひたし」とか料理名でいう男性もけっこういました。それでも一つも出てこないという方はいなかったのです。

ところが、ある男性患者さんにこのテストを実施したときに、この野菜の名前がひとつも出てこなかったのです。

この最後の項目、途中つまって10秒経っても出てこなければそこで打ち切りなのですが、必死に思い出そうとしている男性の姿に10秒以上待ってしまいました。

すると男性は私に向かって「こんな検査を突然するなんてひきょうだよ。野菜でなきゃダメなの」というのです。それは怒って言っているという言い方ではありませんでした。

あきらかに一つも野菜の名前が出てこない自分自身に驚き、動揺し、それを隠すための照れ隠しのように力のない言い方でした。

そのときこの検査は一つ間違えると人の心を傷つけてしまうかもしれないなと思いました。
検査する私自身が不慣れで稚拙(ちせつ)だったことも確かです。
当然それ以降も多くの方にこの検査をしましたが、簡単にできる検査だけに気をつけて行うように心がけました。

さて、話は母のことに戻ります。このNHKスペシャルを見て、ふとこの長谷川式スケールの出来事を思い出しました。
なぜなら、認定調査員が母にした検査は、この長谷川式スケールのいくつかの項目を使ったものだったからです。

そして、母にずっと聞いてみたかったことを思い切って聞いてみたのです。
「なぜここが自宅でなく施設と言ったの?」

すると母は何のためらいもなく言いました。
「ここは娘の家だから」と答えたのでした。
母にとっての自宅は、長く暮らした静岡県にあった家が唯一の自宅だったのです。

「施設か自宅か」。二者択一なので「ここは自宅ではない」ので「施設」と答えたということになります。

この意外な言葉に私自身はけっこうショックを受けました。
「自宅だと思っていなかった」。初めて母の深い思いを知りました。
一緒に暮らしていても母のほんとうの気持ちが分かっていなかったのだと思います。

ところが1年経った今では、ほんとうに自宅を施設と思い違いをしていることが多くなりました。
週4日通っているデイサービスが、こじんまりとした家庭的な雰囲気なので娘の家と区別がつかなくなっているのです。

認知症の初期の検査としては世界的には「MMSE」という検査がよく使われていますが、日本では、この長谷川式スケールが今も使われていることが多いそうです。

rouzinnbyou

ところで、鍼灸関連での認知症対策として、老人病研究会が認知症Gold-QPD鍼灸師の育成に力をいれています。

現在の高齢社会において東洋医学や西洋医学・介護福祉という複合的視点から課題解決できる鍼灸師の育成を目的にしています。全国の認知症Gold-QPD鍼灸師の詳細はこちらからご覧いただけます。